薄曇りの空に、日が西へ少し傾きかけていた。
街道筋の小さな宿場では、早い店からぼちぼち店じまいの支度が始まっている。
蓮也は、馬小屋の軒先で手綱を受け取ると、軽く首筋を撫でた。
茶色い毛並みの、まだ若い馬だった。鼻先から白い息が立つ。
「峠をひとつ越えるだけなら、こいつで足りるだろう」
宿の親父が、手綱を蓮也の手へ渡した。
「ほう、えい顔しちゅう。わしに似て、なかなか男前やの」
返事を待つより先に、自分でそう言って笑い、銭を払う。
それから振り返って、蒼史郎に目を向けた。
「ほら蒼史郎。せっかく馬借りたがやき、歩き通したら損やろ。
峠がきつうなる前に、一遍は乗っちょけ」
蒼史郎は荷を肩にかけ直し、少しだけ眉を動かした。
「歩ける。これしき、どうってことない」
「おまんは、いつもそう言う」
蓮也の視線が、ほんの少し蒼史郎の片足へ落ちる。
先の騒ぎで負った傷は、歩くぶんには差し障りない。けれど、ときどき歩幅の端に、かすかな重さが滲む。
(よう言う。口ほど軽い足やないろうに)
そう思いながらも、口には出さず、代わりにわざと大げさに肩をすくめた。
「無理するな言うがよ。山の上で動けんなったら、わしが面倒みないかんなる」
「峠で止まるような足やない」
「それでも、いざいうときは、荷を下ろしてでもおまんを乗せる。
わしは手綱引いて歩くき 」
「阿呆言うな」
蒼史郎はそこでようやく馬を振り返り、短く息を吐いた。
「馬は荷物でえい。おまんを歩かせて自分だけ乗るくらいやったら、歩いちょるほうがましじゃ。そんな筋は通らん」
蓮也は「また筋言いゆう」と笑って、馬の首筋をぽんと叩いた。
「道理だけじゃ、命は守れんぞ」
「わしの身は、わしで持つ」
蒼史郎はそれ以上何も言わず、すたすたと街道に出る。
蓮也はその背中に並びながら、口元だけで笑った。
「前から思いよったけんど、おまん、そうやって人の分まで背負い込むき」
「……おまんが、放り出しそうな分があるきな」
ぽつりと返ってきた言葉に、蓮也は目を細めた。
(こういうところよのう)
馬の手綱を引き、三つの影が、西日の差す宿場をあとにした。
宿場を離れるにつれ、家並みはまばらになっていく。
日はまだ高いが、影だけはじわじわ長くなっていた。
やがて畑が切れ、鬱蒼とした木立が道の両脇を塞ぎ始める。
山裾の道は、思った以上に緩やかで、それでいて長い。
小石を踏む音。
馬の蹄が土を叩く鈍い拍子。
それに、もうひとつ――
蓮也は何気ない顔で振り返った。
遠く、曲がり角の向こうに、同じような旅装の影がいくつか見える。
(……ついて来よる)
気のせい、と言い切るには、間がよすぎた。
前を歩く蒼史郎に、声を掛ける。
「さっきの宿場で、妙な目ぇ向けられよったが、気づいちょったか」
「……ああ」
蒼史郎は足を止めずに答える。
「気のせいじゃ、なさそうやのう」
惚けたような口ぶりに、蒼史郎の肩がかすかに揺れた。
「気のせいで済まんことばっかりやりゆうろう 」
「誰が」
「おまんが」
即答に、蓮也は思わず吹き出した。
「ひどいのう。わし一人のせいかえ」
「……“都の外で勝手に筋書きを引き直しゆう無礼者”は、誰のことやと思う」
蒼史郎は振り向かずに言う。
声は静かだが、言葉の選び方に容赦がない。
蓮也は、ふふ、と喉の奥で笑った。
「えい名付けじゃ。わしのことかえ?」
蒼史郎は、前を見据えたままさらりと言い落とす。
「——蓮也。
おまんみたいに、揉め事の只中へ入って、気がついたら話をまとめちゅう奴が、そうおるか」
「買うてくれてるがか、落としてくれゆうがか、どっちやろうな」
「どっちもじゃ」
短い返事に、軽い呆れと、迷いのない信頼がにじんでいた。
蓮也はその温度を背中で受け取り、肩をすくめた。
(どこへ行っても、こいつと歩きゆうときが一番おもしろい)
「こうなるときは、たいてい“言うちゃいかんこと”をわしが言うた後やのう」
何気なくこぼした言葉に、蒼史郎が鼻で笑う。
「その口が命取りやき」
返事はいつも通り辛いのに、その背は、いつのまにか蓮也と並び始めていた。
峠の手前、小さな祠が道端にぽつねんと立っていた。
石段は崩れかけ、鳥居は色を失い、苔だけがしぶとく残っている。
その祠の陰で、道が緩やかに折れた。
曲がり角を抜けた先に、人影が二つ、三つ。
旅の装いにしては、腰の据わり方が妙に硬い。
わずかに開いた間合いで、光るものがかすめた。
後ろからも、さきほどまで一定の距離を保っていた足音が、にわかに詰めてくる。
馬がひとつ、短く鼻を鳴らした。
蒼史郎が、ほんの半歩だけ蓮也に寄る。
声は落として、冗談とも本気ともつかない調子だった。
「……よう待っちょったのう」
蓮也は、手綱を持ち直した。
「歓迎が手ぇ込んじゅう」
前方を一瞥して、肩をすくめる。
「わしらも、出世したもんや。山ん中でわざわざ出迎え付きやき」
前に立つ影のひとりが、舌打ち交じりに吐き捨てた。
「笑うとる暇があるなら、刀を取れや、土佐浪士」
名乗りも名指しもない。
けれど、「土佐」という一言だけで、誰を狙っているのかは十分だった。
蒼史郎は静かに肩を回し、刀に手をかける。
一歩前へ出た足の裏に、古い傷の名残が、うっすらと引っかかった。
「どないする」と問うまでもない。
蓮也は馬の側腹に手をかけ、状況を一息で見切る。
(斬り抜けるにゃ、ちくと数が多い。戻るにも、道が狭すぎる)
一拍。
頭の中で、峠の向こうまでの道のりを素早くなぞった。
(あの向こうは下りが続く。暗うなったら、足で追うは骨が折れる)
「走らすほうが早い。――馬で」
言うが早いか、蓮也は鞍へ身を預けた。
ひらりと軽く、いつも通りの癖で。
その動きと入れ替わるように、前からひとりが飛び出してくる。
刀が空気を掠め、細い光の線を引いた。
蒼史郎が、一歩踏み込み、斬り込みを受け止める。
足元の小石がわずかに転がり、片足にかすかな張りが走った。
ひと息ぶんだけ、重心をかけ直す。
「っ」
喉の奥で息が切れる。
それでも、上体は揺らさない。
受けた刃を外へいなし、すれ違いざまに相手の肩口を強く打ち払った。
鈍い悲鳴とともに、男の身体がよろめき、そのまま土に膝をつく。
持った刀が地面を叩き、もう一度、短く音を立てた。
一太刀で、しばらくは立てぬ程度には沈めた。
前後の影が、一瞬だけ足を止める。
目の前で仲間が崩れたことと、馬の存在が、間合いを詰める足を鈍らせた。
蓮也は鞍の上から、蒼史郎の足元を一瞬だけ見た。
(あの足、まだ踏ん張る。けんど……長うはもたん)
「蒼史郎!」
呼びかけながら、馬の首をぐっと引く。
馬の胸先を前へ押し出すようにして、蒼史郎と残った影とのあいだに割って入った。
大きな躯が迫ってきて、影のひとりが思わず一歩、後ろへ跳ねる。
馬の脚を恐れて、刃の先がわずかに下がった。
その隙に、蓮也は馬を半歩だけひねって蒼史郎のほうへ向ける。
左手で素早く手綱をまとめ、右手を差し出した。
「蒼史郎、えいき、来い!」
蒼史郎が顔を上げる。
額にうっすら汗がにじんでいる。
それなりに息は上がっているが、立ち姿そのものは崩れていない。
「……わしは、まだいけるき。乗らんでも――」
「ごちゃごちゃ言いよったら、ほんまに置いてくぞ!」
声の調子はまだ軽さが残っているのに、目だけは笑っていない。
差し出された手の先で、蒼史郎の瞳がわずかに揺れた。
一瞬の逡巡。
歯を食いしばる気配が、距離を越えて伝わってくる。
それから――蒼史郎は地を強く蹴った。
飛びついてきた腕を、蓮也ががっちりとつかむ。
膝を踏ん張り、全身で引き上げた。
「せいやっ!」
ぎし、と鞍がきしむ。
蒼史郎の体が、ふっと軽くなり、蓮也の背後へと回り込む。
二人分の重みが乗った馬が、低くいななき、蹄で土を抉った。
「落ちるなよ、蒼史郎!」
振り返らずに叫ぶと、背中に回された腕が、ぐっと腹の前で組まれた。
「……振り落としたら、承知せん」
耳元で返ってきた声は、息が少し荒いほかは、いつもの調子に近かった。
その端に混じったかすかな掠れが、足の痛みだけのものではないことは、背中越しにも伝わった。
「遠慮しちょる暇ぁないき! よう掴まえ!」
手綱を打つ。
馬が土煙を上げて駆け出した。
前の影が、罵声と驚きの声を同時に上げて道を開ける。
刃がひとつ、斜めに振り下ろされる。
かすめた風が頬を撫で、袖の端を裂いた。
「まっこと……狙われ慣れちゅうのう、おまんは!」
背中越しに蒼史郎が吐き捨てる。
「褒め言葉やろ、それ」
蓮也は笑いながら、それでも目は前を離さず、馬を峠へと追い立てた。
峠を越える頃には、空はすでに昼の色を手放し、群青へとゆっくり傾き始めていた。
山の稜線だけが、名残のようにうっすらと光をまとっている。
山の向こうは、ひたすら下りが続く。
木々が頭上を塞ぎ、残り火みたいな空の明かりが、途切れ途切れに地面をまだらに照らした。
追っ手の気配は、もう遠い。
それでも、蓮也はしばらく馬を止めなかった。
ようやく沢の音が聞こえ始め、道が少し開けたところで、ようやく手綱を引く。
「ここらで、一息いれようか」
馬が息を吐き、立ち止まる。
蓮也が先に飛び降りると、背後の蒼史郎に手を伸ばした。
「……降りられるか」
「そのくらいで手ぇ貸されるほどやない」
蒼史郎は、腕の力を頼りに軽く体を起こし、地面へ降り立つ。
足に体重を乗せた瞬間、ほんのわずかに重心を移し替えた。
「ほどほどにしちょけ。まだ先があるき」
蓮也が苦笑混じりに言うと、蒼史郎は木に片手をつきながら、息を整えた。
「落とさんかったのは、褒めちゃる」
声には、まだほんの少し荒さが残る。
けれど、調子は、もうほとんどいつもの蒼史郎だった。
蓮也は、小さく肩を揺らした。
「そら困るき。あそこで崩れられたら、わしもたまらん」
蒼史郎は、それには何も返さない。
代わりに、山あいの冷えた空気を胸いっぱいに吸い込み、静かに吐き出した。
沢の水音と、馬の鼻息だけが、山の薄闇の底から立ち上がってくる。
蒼史郎は、刀を抜いて水へと差し入れ、刃についた赤を静かに洗い流した。
袖口と手の甲も、ざぶり、と一度だけ。
蒼史郎が、少し間を置いて零した。
「……あの城下じゃ、郷士が馬に乗るのは許されん」
刃先から落ちた雫が、水面にひとつ溶けた。
「けんど、山ん中じゃ、誰も見とらんき」
蓮也はその横顔を見やり、口の端を上げる。
「見とったとしても、文句言う暇あるかの。
馬に乗らにゃ斬られるだけやき」
蒼史郎は目を伏せ、短く笑った。
「言いよることは正しゅうても、その顔で言われると腹立つのう」
「顔は関係ないろう」
軽口を交わしながらも、足に残る痛みのことは、お互い口に出さない。
その黙り方に、ここまで一緒にくぐってきた夜の数が、そのままにじんでいた。
蓮也は馬の鬣を撫で、ちらりと蒼史郎を見やる。
(郷士じゃろうが何じゃろうが、こいつ置いては行けんき)
そう心の中でだけ決めて、何も言わなかった。
「行くぞ。今夜の宿まで、もうひと山や」
「……ああ」
蒼史郎は木から手を放ち、歩幅をわずかに整えながら、前へと歩き出した。
日がとっぷり暮れる頃、ふたりが辿り着いたのは、谷間の小さな村の外れにある宿だった。
山あいの闇の中で、軒先の行灯だけがぽうっと灯り、煤けた暖簾を黄色く透かしている。
暖簾をくぐると、囲炉裏の煙と味噌の匂いが、疲れたからだにじんわり染み込んできた。
「二人と一頭、頼む」
蓮也がそう言うと、宿の女将は二人と馬の様子を一度だけ眺め、それから小さくうなずいた。
「はいはい。馬は裏の小屋が空いとりますけん」
馬の行き場を教え、粗末な二間続きのうち、一つをあてがう。
畳の上に、布団が二組、並んでいた。
蓮也は部屋をぐるりと見て、出入口と板戸の具合をざっと確かめる。
「よし。入口側、わしが寝るき。
蒼史郎は、壁のほう行きや」
そう言って、奥の布団を顎で示した。
蒼史郎が、目を瞬かせる。
「……わしは奥か」
「今夜はな。
壁があったほうが、起きるにも楽やろ」
蓮也は自分の刀と蒼史郎の刀を手に取り、板の間にそっと並べた。
出入口と壁際のあいだ、二人のどちらの手にも届くあたりだった。
「刀はここや。
いざとなったら、どっちが先に跳ね起きても届くき」
「人の分まで、よう段取り決めよるのう」
蒼史郎はそう言いながらも、結局は何も逆らわず、壁側の布団へ腰を下ろす。
足を崩した瞬間、表情が一瞬だけ揺れた。
蓮也は、見て見ぬふりで布団に倒れ込む。
「心配せんでも、寝首は掻かんきね」
天井を見上げたまま、いつもの調子で言う。
蒼史郎は壁際の布団に身を沈めながら、ちらと横目をやった。
「掻かれるがは、おまんのほうやろ。
これだけ目ぇ付けられちゅうがに」
「狙われんようになったら、わしの役目も終いじゃき」
蒼史郎は、ふっと口端だけで笑った。
「まっこと油断ならんのう、おまんは」
声には、山道で背中にしがみついちょった時間の名残が、薄く混じっていた。
蓮也はその響きを聞きながら、片手を額の上にのせる。
(油断ならん言われようが、かまん。寝ちゅうあいだぐらい、見ちょってもえいやろ)
目は閉じていても、耳は外の気配を追っていた。
蒼史郎は壁際に身を横たえ、静かに目を閉じる。
片足を伸ばすと、傷跡が軽く筋を引くように疼いた。
(……任せた)
それだけで十分や、とでも言うように、天井の方へ小さく息を吐いた。
障子の向こうで、風が山肌を撫でる音がする。
火の気の引いた夜気が、少しずつ部屋に降りてくる。
二人は同じ部屋で、背を向け合うように寝転びながら、
それぞれの沈黙を抱えたまま、やがて眠りへ落ちていった。
眠りに落ちるまでのあいだ、蓮也のまぶたの裏には、山道の薄闇と、背中ごしに伝わった蒼史郎の重みと、耳もとをかすめた馬の息づかいが、いつまでも残っていた。
朝霧がまだ谷底にうっすら溜まっていた。
村の外れ、細い道の脇にある小さな馬小屋から、干し草の匂いと、馬のぬるい息が漏れている。
蓮也は、宿の土間から一歩出て、肩をぐるりと回した。
ひと晩寝ただけでは、背中のこわばりも、張り詰めた神経も、そう簡単には抜けてくれない。
小屋の前には、もう蒼史郎が立っていた。
片足を気遣うふうもなく、いつもの背筋で、馬の首筋をぽん、と軽く叩いている。
「よう寝られたか」
声を掛けると、蒼史郎はちらと振り向いた。
「布団があるだけで、有難いもんや」
返事は簡素だったが、目の下の影は昨夜より薄い。
蓮也は、それを見てから、わざとらしく馬の側腹に手をかけた。
「ほいたら、今日もこいつに世話になろうかの」
手綱を引きながら、蒼史郎のほうへちらと目を向ける。
「昨日も足、よう働かせたろ。
峠までは、おまんが乗れや」
一瞬、蒼史郎の眉がわずかに動いた。
昨夜、馬の背で預けるしかなかった重さと、そのとき飲み込んだものが、まだ胸の奥にのこっているようだった。
「遠慮せんでもえい。昨日はわしばっかり楽したき、今日はおまんの番や」
蓮也は、そう言い足しておいた。
どうせまた、「歩ける」と言い張るじゃろうと、どこかで決め込んだまま。
けれど蒼史郎は、しばし馬の横顔を見てから、ふっと目を細めた。
「……まあ、峠の上でわしの足が止まったら、困るきの」
それだけ言うと、蓮也の手からさりげなく手綱を受け取る。
介助を待つふうもなく、鞍の近くに足を掛け――
ひょい、と。
昨夜とは比べものにならない軽さで、難なく鞍の上に身を収めた。
蓮也は、思わず足を止める。
「……おまん」
間の抜けた声が、勝手に出た。
「馬、乗れるんか」
蒼史郎は馬上から見下ろし、肩をひとつすくめる。
「乗れんとは、一言も言うちょらん」
「『郷士が馬に乗るのは許されん』言うちょったろうが」
「城下の話やろうが」
あっさりと言い捨てて、手綱を軽く引く。
馬が小さく首を振り、蹄で土を鳴らした。
「里では、馬なしじゃ暮らしが立たんき。
薪も、作物も。山ぁ下ろすんに、人の足だけじゃ間に合わん」
蓮也は、そこでようやく笑い出した。
「なんじゃ、達者なもんやの。
昨夜は、初めて乗った男みたいやったに」
「……あれは、おまんの乗せ方が乱暴やったき」
そっぽを向いたまま返す声に、わずかな照れが混じる。
蓮也は、ますますおかしくなってきて、腹の底から笑った。
「ほんなら、今日は任せるき。
“馬に乗る郷士”の手並み、よう見せてもらおうか」
「見よらんでもえい。転ばんようにだけ、ついて来いや」
蒼史郎が軽く舌打ち混じりに言う。
けれど、その口端は、ごくわずかにあがっていた。
蓮也は肩を揺らしながら、蒼史郎が乗った馬の後ろにつく。
朝霧の中、蹄の音が、谷あいの細い道にぽつぽつと刻まれていく。
この山道と薄闇と、馬の息づかいを共に抜けた夜のことを、ふたりは長く、口に出して語ることはなかった。
ただ、あとから思えば――
歩幅が自然と揃い始めたのは、あの峠道のあたりやったのかもしれん。
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校正協力:Claude