前作が2019年発行だったと知って驚いた。
第1作『源平の風』が1996年だということも、後から調べてさらに驚いた。このシリーズとは、十数年以上の付き合いにということになる。
今作で既刊8巻。
数年に一度のペースで刊行されていて、数年に一度のペースで刊行されていて、小学1年生が社会人となって働いているくらいの年月が経っている。
それでも不思議と「待たされた」という感じはしない。
毎回、
「続きそう……!!」「でも、ここで終わっても美しい……!!」
その両方を残して閉じている。
だから、続きが気になりすぎて狂いそうになる、ということがない。
数年ぶりに出会っても、すっと戻れる。
主人公の白狐魔丸は、狐だ。
狐だけれど、人間に興味はある。
関わった人間には、情もわく。
でも、その他の人間のことは、一歩引いて見ている。
どこか他人事だ。
そのバランスが、人ならざるものとして効いている。
数年ぶりに読んだため定かではないが、今回は人々の一回あたりに話す量が前よりも増えている気がした。
胸の内に重いものを据え、国ごと抱えるように生きていた人たちの話だったからかもしれない。
――幕末は、私にとっては蓮也やさんと蒼史郎さんがいた時代でもある。
この白狐魔記の舞台の裏側で、彼らは何をしていたのだろうと想いを馳せていた。
源平から始まったこの長い物語が、だんだんと現代に近づいてくる。
近づくほどに、白狐魔丸も少しずつ現実味を帯びてくるような気がした。
今作も、終わりは良かった。
ここで終わっても美しいし、続きがあってもいい。
でも、読み終えてふと、現代の白狐魔丸はどうしているのだろうと思った。
できれば、その答えを知りたい。
知りたいと思ってしまったということは、今回は、「続き」が気になってしまったということだ。
齋藤先生、よろしくお願いします。
おまけ ―寓居にて―

白狐魔丸の視線の先を思いながら、蓮也さん、蒼史郎さんとこんな会話をした。
「……長う生きちゅう狐やねえ」
蓮也は、読み終えた本の表紙に指を置いた。
紙の端が、灯の色を薄く吸っている。
蒼史郎は湯呑を持ったまま、すぐには答えなかった。
「人より長う生きるもんは、よう覚えちゅうがか。
……それとも、忘れんとやっていけんがか」
蓮也は答えなかった。
表紙に置いた指の先で、紙がかすかに鳴る。
蒼史郎は、湯呑の縁を指でなぞる。
「おまんは、会うたら聞きに行きそうやな」
蓮也が顔を上げる。
「白狐魔丸にか」
「ほかに誰がおる」
「そら、聞くろう。
源平から幕末まで見ちゅう狐やぞ。
聞きたいことだらけや」
蒼史郎は湯呑を置いた。
ことり、と音がする。
「やめちょけ」
「なんで」
「狐にも都合がある」
蓮也は一度黙った。
それから、口元をゆるめる。
「蒼史郎は、狐に好かれそうやけどねえ」
「俺は何もせん」
「何もせんき、寄ってくるがよ」
蒼史郎は返さなかった。
ただ、表紙の白い字へ目を落とす。
火鉢の中で、炭がひとつ崩れた。
「……もし、見られちょったら」
蓮也の声が、少し低くなる。
「わしらは、どう映っちょったろうね」
蒼史郎は、しばらく火を見ていた。
赤い芯が、灰の下で細く残っている。
「知らん」
そう言って、再び湯呑みを引き寄せる。
「ただの人間やろ」
蓮也は笑わなかった。
その横顔を見て、蒼史郎もそれ以上は言わない。
襖の外で、夜の音がした。
時代の端で、白い狐が、こちらを見ていたような気がした。
