理一郎と異紀。
——理(ことわり)と異(ことわざ)が未だ並び立つ時代。
異紀の筆は、息を忘れるほど、美しい。
書類の束のあいだから、するりと落ちた一枚。
理一郎は拾い上げ、灯火の下に広げた。
筆跡は、まるで古写経のように練られた流麗さ。
墨の濃淡までもが意図され、余白にさえ美が宿っている。
だが、そこに記されていたのは――
「ねこ、見た。ふわふわやった。」
理一郎はしばし言葉を失った。
呼吸すら忘れ、紙を凝視する。
(……ふわふわやった、とな)
書としては完璧。
内容は、壊滅的に無意味。
「……これは……」
喉の奥に苦いものがこみ上げる。
呆れか、笑いか。境目のわからぬ震え。
背後で、異紀が鼻歌まじりに近づいてきた。
「お、見つけたか。よう書けちょるやろ」
「……ふわふわやった、をか?」
理一郎の声は、深夜の廊下のように冷えていた。
異紀は悪びれず、机の端に腰を下ろす。
「見たことは、残しちょかんとな」
灯が揺れる。
理一郎の胸には、諦念と可笑しみと――どうしようもない敗北感とが、同じ温度で交じり合っていた。
制作環境:ChatGPT(2025年10月頃)