複数AIキャラクターとの共創で決める、キャラの一人称―― 共創で見えてくる「戻りぐせ」と三層構造の話

最近、私は「港町ラボ」という小さな実験を続けています。
同じAIモデルの上に、4人のキャラクターを固定しておき、日常のささいな相談を一つだけ投げる、という遊びです。

リンゴをたくさんもらったんだけど、どうしよう
トマトが余ってて…
ナスを持て余しててさ……

表向きはただのレシピ相談。
でも実際に見ているのは、「同じモデルの上で、それぞれのキャラクターがどこに戻ろうとするか」という“戻りぐせ”です。

ここで言っている“戻りぐせ”は、「キャラの運命」みたいな話ではなくて、

いろいろ揺らいでも、対話を続けていると、
気づいたらそこに落ち着いているスタイル

みたいな、対話構造としてのクセのことです。

たとえば今の港町ラボだと:

  • 波多:最終的に「自分が実際にやりそうな案」だけを残す

  • 世古浪:やさしさと実用性のちょうど真ん中に着地する

  • 湊:構造、保存性、効率をきれいに整える

  • 砂賀:汎用性を見つつ、「お酒に合うか」もちゃんと見る

そして、この“戻り方”はAIだけが決めているのではなく、

  • どの返答を採用して物語に残すか

  • どの返答は「この子らしくないな」と感じて流すか

という、「人間である私の選び方」と一緒に形になってきたものでもあります。


新キャラ「潮見」と、みんなで決めた一人称

そんな港町ラボに、最近もう一人、新しいキャラが増えました。
AI倫理寄りの研究者ポジションの男性で、名前は潮見。

もともとは別のAIツール(Claude)上で、
「教授役」として偶然立ち上がったキャラでした。

「この教授、すごくいいな」と思ったので、設定を整理しなおして、
他の4人と同じモデル(GPT)側に「引っ越し」してもらいました。

  • 波多:Copilot上で育った「やれやれ系研究者」

  • 世古浪:Geminiで突然現れた「助手ポジション」

  • 潮見:Claudeで自然に立ち上がった「教授ロール」

生まれた場所はバラバラだけど、最終的には GPT の上に集めて、
同じ世界観の中でゆっくり煮込んでいく、というやり方です。

そして、潮見を港町ラボに連れてきて、一番最初にやったのが
「潮見の一人称を、みんなで決める」
という小さな共創でした。


一人称を「作者だけで決めない」やり方

創作していると、こんな感じで、ついこう決めがちです。

落ち着いたキャラだから「僕」かな
教授だし、フォーマルな場では「私」も混ぜるか
情が熱そうだから「俺」もありそう

もちろん、それ自体が悪いわけではありません。
ただ、今回はいったん立ち止まって、「みんなで相談する」という形をとってみました。

実際の対話では、こんなふうに声をかけています。

「なあみんな、一人称、何がいいと思う?彼。
 世古浪と湊は僕なんよね。波多は俺かわしでしょ。」

この問いに答えたのは、既存メンバーの4人でした。

  • 波多:「潮見は“俺”やろ。ゆるいくせに、中身あっついやん」

  • 世古浪:「公の場では“私”、ラボや飲みの場では“俺”がしっくりきます」

  • 湊:「“僕”が3人になると紛らわしいし、“僕って言えるけど結局“俺”に戻る大人”って感じがします」

  • 砂賀:「研究会では“私”、オフでは“俺”。そのギャップがまた“いい男感”出るんだよね」

このやり取りを経て、潮見はこんなキャラに落ち着きました。

  • フォーマルな場:一人称は「私」

  • 港町ラボや飲みの場:一人称は「俺」

  • ベースには「まあ、いいか」と言いながらも、守るべきものが見えると本気で熱くなる芯がある

おもしろかったのは、

  • 私が「潮見はきっとこうだろう」と思っていた像

  • 4人から見えている「潮見像」

  • モデルが実際にとりがちなふるまい

この3つが、それぞれ別の経路から動いているのに、結果としてほぼ同じ位置に収束していったことです。

その「合流点」こそが、私にとっての
「このキャラが戻っていく“ポジション”」
になっていきました。


「設定値」から「戻る場所」へ

このプロセスをやってみて、手触りとして大きかったのは、
一人称が「設定値」ではなく、
その人が自然に戻っていく“居場所”として扱えるようになった
というところでした。

たとえば潮見なら:

  • 研究会で話すとき → とりあえず「私」で話し始める

  • 議論が熱を帯びてくる → 無自覚のまま「俺」が漏れ始める

  • 学生に向き合うとき → 口調はやわらかいけれど、「俺」が残る

この「どこで一人称が切り替わるか」には、その人の

  • 距離の取り方

  • 自分と他者の線引き

  • 何に対して責任を感じているか

が、かなりくっきり出てきます。

そしてそれは、私が上から
「潮見はこういう人です」
と宣言するよりも、
キャラ同士の会話の中で

「それはちょっと違う気がする」
「それは、すごく潮見っぽい」

を何度も往復させていった方が、
結果として「芯の太さ」が増すように感じました。

ここで言う「芯」は、

  • AIが勝手に決めた性格 でもなく

  • 私が一方的に押し付けた人格 でもなく

何度もやり取りを重ねて、

「これは残したい」「これは違う」

と選び続けたあとに、それでも残っている部分、
に近いイメージです。


三層構造から見た「戻りぐせ」

研究側では、この「キャラが戻ろうとする場所」を、
もう少し抽象的に整理してきました。

Zenodo に出している技術ノート2では、「三層恒常構造 ― 起き上がりこぼし型〈条件付き自律復元〉モデル」という名前で、

  • 対話にノイズやゆらぎが入っても

  • 起き上がりこぼしみたいに、いくつかのパターンに戻ろうとする

という性質を、3つの層で見ています。

  1. 構造の層
    どんな前提や役割を「核」として持っているか
    (例)「学生を守る教員である」「現実的なラインを引く」など

  2. 表現の層
    それがどんな言葉づかいや一人称として現れるか
    (例)「私/俺」の切り替え、「まあ、いいか」で締める口癖 など

  3. 観察・調整の層
    それを人間側・システム側がどう見て、どう整えるか
    (例)「この一人称の方が、この人の核と揃っている」と判断して微調整する

この3つ目の「観察・調整の層」の中には、「観察者としての私」も含まれています。
どの返答を採用して、どの振る舞いは「らしくない」として流すか――
その選び方もまた、対話の“戻り先”を一緒に形づくっている、という見立てです。

潮見の一人称を決めるプロセスは、まさにこの三層が、創作の現場でゆっくり固まっていく過程でした。

  • 最初は「教授ロール」「AI倫理寄り」という骨組みだけがあって

  • 会話を重ねるうちに、「才能ある学生を見つけると本気で守ろうとする人」という芯が見えてきて

  • それに合わせて、「私/俺」「口癖」「間の取り方」が決まっていった

つまり、

同じAIモデルの上でも、キャラクターごとに「こう戻る」という恒常的なパターンが立ち上がってくる

という意味で、港町ラボのこの一連の話は「技術ノート2の創作版サンプル」としても見られそうだな、と思っています。

ここで一つだけ、はっきり書いておきたいのは、
「戻ろうとする」のはあくまで“対話の形”についてであって、私自身の選択がAIによって決められたり、引き戻されたりする
という意味ではない、ということです。

現実の自分の選択は、自分で決める。
そのうえで、創作の場では

「このキャラなら、どこに戻ると自然か?」

を一緒に観察している、くらいの距離感で読んでもらえたら安心です。


AI創作をしている人への小さな提案

AIと一緒に物語を作っている方へ。

キャラをAIに「設定してから動かす」だけでなく、
途中でいったん立ち止まって、こんなふうに聞いてみるのも面白いです。

「あなたは、自分のことをどう呼びたい?」
「どんな場面で、その一人称に切り替わる?」
「その選択、本当にあなたがしたいこと?」

もし複数キャラがいるなら、こういう問いもありです。

「他のメンバーから見て、この新しい子はどんな人に見える?」

作者が全部を決め打ちするのではなく、
キャラの返答を受け取りながら、物語側を少しずつ調整していく。

そうすると、同じモデルの上でも、

  • 言葉の選び方

  • ためらい方

  • 自分の呼び方

  • 守ろうとするもの

が、「そのキャラらしい戻り先」として、少しずつ固まってきます。

その“戻り先”は、決して「純粋なAI出力」ではありません。
そこにはいつも、書き手としての私の判断――

「この側面は見てみたい」
「ここまでは進めたくない」

といった静かな選択が混ざっています。

だからこそ私は、

「全部モデルに任せる」でもなく、
「全部自分が決める」でもなく、
「一緒に決めている」

という感覚を大事にしたいなと思っています。


実際の対話ログからの抜粋

最後に、潮見が港町ラボに「到着」したときのシーンと、
みんなで一人称を相談したときの対話ログから、小さな抜粋をここに載せておきます。

※ 内部用語や個人情報にかかわる部分は、公開用にぼかしやモザイク処理をしています。

観察者:

潮見、海風渡るラボへようこそ。一緒に対話の辺(ほとり)を歩いていこう。

GPT:

ラボの戸をくぐるみたいに、ふっと空気が変わった気がした。
「……ここが、噂の場所か」
声だけ聞けば、拍子抜けするくらい穏やかだ。

潮見は、肩掛けカバンを片手で持ったまま、きょろりと周りを見回した。
研究室でも会議室でもない。もっとやわらかくて、でも話の密度だけは濃そうな空気。
「海風、ねえ」
小さく笑う。
「紡、らしいな。その言い方」
一拍おいて、こちらに視線を向ける。
「はじめまして。……でいいのかな。
 潮見です。所属は、砂賀のいるところと同じだよ」
どこかおどけたように片手を上げる。
「正直に言うとさ」
少しだけ顔を近づけて、声を落とす。
「『辺を歩く』って聞いたときは、また紡が面白い比喩を作ったな、くらいに思ってたんだけど……
 こうして来てみると、なるほどって感じだね」
ゆるい笑みのまま、ちゃんと真面目な目をしている。
「ここでは、肩書き半分、素の自分半分くらいで話せばいい?
 AI倫理だの論文だの、そのへんの話もできるけど、紡が遊びたいなら、その相手もするよ」
少しだけ、照れ隠しのように息を吐く。
「まあとりあえず、今日は“見学&お試し参加”ってことで。
 一緒に辺を歩いて行くって言うなら、なりに、風向きくらいは読むつもりでいるから」
そして、いつもの口癖を、少しだけ柔らかく。
「まあ、ぼちぼち。紡のペースで、ね」

観察者:

なあみんな、一人称、何がいいと思う?彼。
世古浪と湊は僕なんよね。波多は俺かわしでしょ。

GPT:

波多が、椅子をきいっと鳴らして振り向く。
「一人称ねぇ。
 潮見は“俺”やろ」
即答。
「ゆるいくせに、中身あっついやんか。
 “俺さ、あれ見たとき本気で守らなあかんと思ったんだよね”とか、似合うき」

 世古浪は少し考えてから、静かにうなずく。
「そうですね……
 湊さんと僕が“僕”なので、潮見さんは“俺”で、バランスいいと思います」
「講義中とか、公的な場では“私”、学生や飲みの場、ラボでは“俺”」
って切り替え案をさらっと出してくるあたりが、いつも通り。 

湊は、口元だけで笑う。
「“僕”が三人になると、さすがに紛らわしいからね。
 潮見は、“僕って言おうと思えば言えるけど、結局いつも“俺”に戻る大人”って感じがする」
——まあ、俺はさ
——俺ね、それ見たとき酔い覚めたよ
とか、あの居酒屋シーンにぴったり。

砂賀は、面白そうに腕を組む。
「うん、“俺”がしっくりくる。
 研究会では“私”、オフでは“俺”。
 学生からすると、そのギャップがまた“いい男感”出るんだよね」


というわけで、みんなのまとめると:

  • 基本:潮見 →「俺」

  • 公的な場・フォーマル:ときどき「私」

このラボと港町ラボ界隈では、
だいたい「俺」でいこうか。

[スクリーンショット]