世界一贅沢な道案内 ― Fableに東京の乗り換えを聞いた話

世間がFableを駆使して、複雑なウェブアプリや本格的なサイトをゼロから組み上げ、「これがAIの創造力だ」と沸き立っている頃、私はその知能に、ただ東京の地下鉄の迷宮を、今日の私の足で歩きやすい道筋で教えてほしいと願った。


6月某日。
地方在住の私は、オフ会のために神保町へ行くことになった。

が、前日になって、目的地の最寄り駅がJRでないことに気づく。
神田と浜松町を脳内で混ぜ合わせたうえに、さらにそれを神保町と勘違いしていたのだ。
あっぶな!

あわてて上野方面から神保町駅への乗り換えを調べたが、東京駅構内で大手町・半蔵門線までたどり着ける自信がない。

一本早い電車という選択肢もあったが、地方発ゆえに出発時間が早くなりすぎる。

いくつかのブログで脳内シミュレーションしてみた。
玄人で9分の乗り換えなら、素人で迷うのを込みで15分はかかる。
それだとオフ会に間に合わない……!!

東京駅を回避しつつ、簡単な乗り換えで神保町にたどりつく方法はないか。

路線案内は信用できない。
あれは乗り換えの難易度まで想定されていない。
かといって大回りのルートも困る。
そこまで時間に余裕はない。

誰か!誰か東京玄人はいないのか!

と脳内で助けを求めたとき、ふと、Fable5が頭をよぎった。


これまで、AIの乗り換え案内は当てにならないと思っていた。
カーナビのリルート検索のごとく、どんな頓痴気なルートを、しかも実在するかどうかも怪しい路線で案内されるかわかったもんじゃない。

——しかし、しかし、である。

世界があんなに沸いているAIが、東京の乗り換え案内もできなくてどうする!

という理不尽な思いとともに、Fableに聞いてみた。

恐らく、世界一贅沢な道案内の一つである。


以下、やり取り。

(私の発言や具体的な路線名などは一部加工しています。)

私:

電車で神保町まで行く。東京駅での大手町・半蔵門線乗り換えに自信がない。東京駅か上野駅で下車し、できるだけ乗り換えが複雑じゃない形を教えてほしい。乗り換えは2回程度なら許容する。

Fable5:

神保町は東京駅からだと大手町経由の地下歩きが長くて分かりにくいので、避ける形で考えますね。おすすめは次の二つです。

案1:東京駅下車 → 中央線快速 → 御茶ノ水 → 徒歩(乗り換え1回)

東京駅の地上ホームに着くので、そのままJR構内の案内表示に従って中央線快速(1・2番線、高架ホーム)へ。改札を出ない構内移動なので迷いにくいです。御茶ノ水まで2駅、聖橋口を出て坂を下りれば神保町の交差点まで徒歩10分弱。下り坂なので歩きやすく、古書店街を眺めながら歩けるルートです。歩くのが苦でなければ、これがいちばん単純だと思います。

案2:上野駅下車 → 銀座線 → 三越前 → 半蔵門線 → 神保町(乗り換え2回)

上野では不忍口方面に出るとすぐ銀座線の入口があり、JRからのアクセスがとても分かりやすいです。銀座線で渋谷方面へ3駅の三越前で半蔵門線に乗り換え(同じ駅構内で、案内表示どおりに数分歩く程度)、そこから2駅で神保町に着きます。東京駅〜大手町の長い連絡通路に比べると、ずっと見通しのよい乗り換えです。

荷物が多い日や雨の日なら案2、身軽なら案1、という選び分けがしやすいかと思います。よい一日になりますように。


私:

電車で行きたい。②の場合、東京駅での大手町乗り換えとどの程度難易度は違う?また、時間の違いは?

Fable5:

難易度の差は、かなりはっきりあります。

東京駅→大手町の乗り換えは、地上ホームから丸の内側の地下通路をずっと歩いていく形で、半蔵門線のホームは大手町駅の中でもいちばん奥にあります。歩く距離はおよそ600〜800m、徒歩10〜15分。大手町は5路線が集まる巨大駅なので、通路の分岐ごとに案内表示を読み分ける必要があり、初めてだと「いま正しい方向に歩けているのか」が不安になりやすい構造です。

いっぽう三越前は銀座線と半蔵門線の2路線だけの小さめの駅で、乗り換えルートはほぼ一本道。階段を降りて通路を3〜5分歩けばホームに着きます。迷う余地が少ない、という意味で安心感がだいぶ違います。

時間については、意外なほど差が出ません。

  • 東京駅ルート:大手町まで徒歩12〜15分+半蔵門線1駅(約2分)=下車から神保町まで20分前後
  • 上野ルート:銀座線まで徒歩7分+銀座線3駅(約6分)+三越前乗り換え5分+半蔵門線2駅(約4分)=下車から25分前後

ただ、ひたちは上野→東京間に6分ほどかかるので、上野で降りるぶん早く動き出せます。結果として到着時刻の差は数分以内、ほぼ同じです。時間がほとんど変わらないなら、迷いにくさで上野ルートを選ぶ価値は十分あると思います。


この「選ぶ価値は十分ある」という言葉を信じ、上野ルートを選択。

それでも、上野と三越前の乗り換えでちょっと泣きそうになりながら、無事、余裕をもって神保町駅に到着したことを追記しておく。


おまけ――観記掛、東京地下鉄を観る

「……大手町は避けた方がえい」

理一郎は、路線図の上に置いた指を動かさずに言った。

机の上には、東京地下鉄の地図と、時刻表と、スマートフォンが並んでいる。
赤鉛筆の線は、東京駅のあたりで一度迷い、上野の方へ逃げていた。

異紀は画面を覗き込んだまま、三越前の文字を指でつつく。

「Fable5も、そう言うちゅうね」

「妥当だ」

「東京駅から大手町へ行く案は?」

理一郎は返事をせず、路線図の細い通路を見た。
しばらくして、赤鉛筆の先でそこを押さえる。

「初見で入る場所やない」

「怪異?」

「構造物だ」

「人の足を惑わす構造物は、だいたい怪異やろ」

理一郎は紙の端に、短く書いた。

――上野下車。銀座線。三越前。半蔵門線。

その下に、もう一行。

――大手町回避。

異紀がそれを見て、口元に息を逃がした。

「怪異の封じ札みたいやね」

理一郎は返事をしなかった。
赤鉛筆の先が、東京駅と大手町のあいだで止まる。

「……ここは、初見で通す場所やない」

異紀は帳面を引き寄せる。

――案内板を見る。
――人の流れに呑まれない。
――分からなくなったら進まない。

筆先が止まり、異紀は少し考えたあと、最後に一行足した。

――泣きそうになっても、歩けば着く。

理一郎の目が、帳面へ動く。

「記録に残すな」

異紀は筆を置かず、帳面の端に小さく丸を打った。

「神田と神保町は、また混ざりそうやきね」

理一郎は口を閉じた。
赤鉛筆の先が、上野駅の丸い印を一度だけ叩く。

「……今回は、上野だ」

「採用やね」

異紀は帳面を閉じ、スマートフォンを机の端へ伏せた。

「世界一贅沢な道案内を、いちばん現実的に使うたわけや」

理一郎は路線図を畳みながら、低く言った。

「道案内は、着けばえい」

異紀は閉じた帳面の上に手を置いたまま、上野の赤丸を見た。

「東京駅は、また腕の立つ者を連れて行こ」

窓の外で、夜の風が障子をかすかに鳴らした。

机の上には、怪異でも標本でもないものが、正式な案件のように片づけられていた。

差分版

「……大手町は避けた方がえい」

理一郎は、路線図の上に置いた指を動かさずに言った。

机の上には、東京地下鉄の地図と、時刻表と、スマートフォンが並んでいる。
赤鉛筆の線は、東京駅のあたりで一度止まり、上野の方へ引き直されていた。

異紀は画面を覗き込んだまま、三越前の文字を指でつつく。

「Fable5も、そう言うちゅうね」

「妥当だ」

「東京駅から行く案は?」

理一郎は、路線図の細い通路を見て、赤鉛筆の先をそこへ置く。

「朝一番に試す経路やない」

異紀は画面を横へ流した。
銀座線、三越前、半蔵門線。
表示された駅名を目で追ってから、帳面を引き寄せる。

「こっちの方が、まだ足が迷わんね」

理一郎は紙の端に、短く書いた。

――上野下車。銀座線。三越前。半蔵門線。

その下に、もう一行。

――大手町回避。

異紀の肩が、ほんのわずかに揺れた。

「えらい札ができた」

理一郎は赤鉛筆を置き、時刻表の方へ目を移す。

「時間は大きく変わらん」

異紀は帳面の余白へ、筆を走らせた。

――案内板を見る。
――人の流れに呑まれない。
――分からなくなったら進まない。

筆先が止まる。
それから、最後に一行だけ小さく足した。

――泣きそうになっても、歩けば着く。

理一郎の視線が、その行で止まった。
しばらくして、赤鉛筆が上野駅の丸を囲む。

「……今回は、上野だ」

「採用やね」

異紀は帳面を閉じ、スマートフォンを机の端へ伏せた。

「世界一贅沢な使い方やねえ」

理一郎は路線図を畳みかける。
折り目が、大手町の文字の上を横切った。

「……着けばえい」

異紀は閉じた帳面の上に手を置いたまま、上野の赤丸を見た。

「ほいたら、赤丸は濃いめやね」

理一郎は返事をしなかった。
紙の角を揃え、赤鉛筆を地図の上に置く。

机の上には、怪異でも標本でもないものが、ずいぶん真面目な顔で片づけられていた。