
「最近、磨らんでも書ける墨が出たらしい」
「へえ。どうやって使うが?」
異紀が容器を取り上げる。
「そのまま筆につけて書けるそうや」
異紀は蓋のあたりを眺め、それから理一郎の方へ寄せた。
「これ、この先百二十八年続くらしいで」
理一郎の目が、容器へ戻る。
「……百二十八年?」
「うん」
少しして、
「……百二十八年使われるなら、まあ、信用はできるか」
開明墨汁、128歳おめでとうございます。
ちなみに、百二十八年先のことを知らずに渡したら、多分こうなる。

異紀は蓋を開け、筆を入れた。
そのまま紙へ一画引く。
「……ほんまに、磨らんでえいがやねえ」
理一郎は、その線を見た。
「乾きは」
「早い」
「滲みは」
「紙によるろうけど、悪うない」
異紀はもう一度、缶を覗いた。
「これ、便利やねえ」
理一郎は何も言わなかった。
――翌朝。
理一郎の机の上にも、同じ瓶が置かれていた。